1. Figma社の概要
設立:2012年(共同創業者 Dylan Field と Evan Wallace)(YouTube, マーケットウォッチ)
本社:アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ
主なサービス:
ブラウザベースの共同デザイン・プロトタイピングツール「Figma」(UI/UXデザイン、グラフィックデザインなど)
オンラインホワイトボード「FigJam」
対応環境:Windows/macOS/Linux とブラウザ対応、インストール不要
特徴:
クラウドでリアルタイム共同編集
豊富なプラグイン・テンプレートと活発なコミュニティ
日本展開:2021年に「Figma Japan株式会社」を設立し、日本でも積極展開中
利用実績:フォーチュン500企業の約95%が利用(Business Insider)
2. Figma社の歴史
2012年:創業
2015–2016年:ベータ版開始(2015年12月)→ パブリックリリース(2016年9月)
2018–2021年:シリーズB~Eで累計約300 Mドル超資金調達、企業評価額は2021年5月に100億ドルへ(ウィキペディア)
2021年:FigJam、Dev Mode、Slides(Presentation)などを順次ローンチ(ウィキペディア)
2022–2023年:
Adobe による約200億ドル規模買収提案(2022年9月)、しかしUK & EUの規制で最終的に2023年12月に破談 → Figmaは10億ドルの違約金を受領(Reuters)
2025年:
7月1日、NYSE上場申請(ティッカー:FIG)。2024年売上749 Mドル(前年比48%増)、月間MAUは1,300万人(マーケットウォッチ)
3. Figma社の現在(2025年7月)
(1)製品ラインとAI展開
Config 2025(2025年5月)で4製品を新発表(Figma)
1. Figma Make:Anthropic Claude 3.7搭載のプロンプト→プロトタイプ/コード生成ツール(The Verge)
2. Figma Sites:ノーコードでウェブサイト構築・公開、CMS機能も年内予定(The Verge)
3. Figma Buzz:マーケティング用ブランド資産作成ツール(テンプレート・AI支援)(The Verge)
4. Figma Draw:Illustrator相当のベクター・ブラシ機能強化ツール(Figma)
AIアシスタンスの強化:
レイヤー名統一、自動コンポーネント設計、プロトタイプ生成など、Figma AI β版がConfigで発表
(2)経営・財務・ユーザー状況
IPO申請(ティッカーFIG):主幹事モルガン・スタンレー等
2024売上:749 Mドル(前年48%増)、Q1 2025で収益と利益が急成長、Q1単四半期で純利益4490万ドル(マーケットウォッチ)
ユーザー規模:MAU約1,300万人、フォーチュン500の9割以上利用
経営陣:CEO Dylan Fieldを中心に、ServiceNow CEO Bill McDermottがボードに加入(マーケットウォッチ)
(3)競合と市場ポジション
競合他社:
Adobe XDは既に後退。現在は主にAdobe Creative Cloud全体との競合に
Figma Sites により、Webflow/Framer/STUDIO、Marketer向けにはCanvaとの競争も顕在化(UXプレイブック)
AIデザイン領域では、Google Stitch/Galileo AIなどの参入にも注目
・主な競合との強み・弱み分析 🆚
競合企業 主な特徴 Figmaに対する強み Figmaに対する弱み
・Adobe Creative Cloud(特にAdobe XD)
業界標準のデザインスイート。Photoshop/Illustratorとの高い互換性。
PhotoshopやIllustratorなどとの連携力- デザインプロフェッショナルに根強い支持- 長年の実績
XDの開発は事実上停滞し、Figmaに機能・UIで後れを取った
クラウド・コラボ性能が弱い
学習コストが高い
・Canva ノンデザイナー向けの簡易グラフィックツール。テンプレートが豊富。
テンプレートによる圧倒的な簡便性- SNS投稿や資料作成などの汎用性
モバイルアプリ対応
プロダクト開発・UI/UX設計には不向き- チームでの厳密なデザイン運用には限界
開発者連携やAIの高度化では遅れがある
・Framer / Webflow / STUDIO
ノーコード・ローコードのWebサイトビルダー
Webサイト構築に特化したノウハウ
CMS機能が成熟している(特にWebflow)
アニメーションや実装再現度が高い
デザインツールとしての自由度はFigmaに劣る
チームコラボ・バージョン管理機能が乏しい
FigJamのようなホワイトボード機能は非搭載
・Galileo AI / Google Labs Stitch
AIによるUIデザイン自動生成
プロンプトによる高速なUI構築
AI技術の先端性
実運用での完成度や微調整の柔軟性に課題あり
大規模チームでの利用を想定した設計は未成熟
エコシステムや拡張性が限定的
・Sketch
初期のモダンUIデザインツールの草分け。Mac専用。
プラグインが豊富- 軽量で高速動作
コラボ機能が限定的
Mac専用で利用者が限定される
開発者連携が不十分
・Figmaのポジショニング:オールインワン × AI × コラボ
Figmaの競争優位性は以下の3点に集約されます:
1. 高機能かつ直感的なデザインツール
UI/UX、イラスト、プレゼン、マーケティングまでカバーする柔軟性。
2. リアルタイム・コラボレーション
複数人で同時編集可能な設計で、リモート時代にマッチ。
3. AIによる自動化とプロダクト統合
Make, Sites, Buzz, Drawに代表されるように、デザインから開発・公開・マーケまでを1つのプラットフォームで実現可能に。
課題とリスク(Figma自身の弱み)
価格上昇による離脱リスク
2025年3月の料金改定で一部顧客から不満が出ており、特に中小企業や教育機関では離脱の可能性もある。
AI競争の激化
GoogleやMeta、独立系スタートアップなどがAI生成UIツールで参入しており、今後の差別化が不可欠。
依存性の高さ(特にクラウド)
オフライン利用やセキュリティ面での懸念を持つ業界(医療・政府機関など)では採用ハードルが高い。
Adobeとの関係再構築
買収破談後の市場関係や戦略的パートナーシップの整理も今後の課題。
4. 今後の展望
1. パブリックカンパニーへの転換と資金調達の拡大
IPO後は市場からの調達も可視化され、AI・プロダクト開発に対する継続的な資金投入が期待される。
2. AI統合とエコシステム構築の深化
Make, Sites, Buzz, Drawと続く製品群にAIが中核として組み込まれ、デザイン→コーディング→公開→マーケまでの垂直統合型ワークフローを確立。
3. 多様なユーザー層への拡大
日本を含むグローバル市場で、デザイナー以外(マーケター/開発者/サイト制作者)への訴求力が強まる予定。日本市場へのローカライズや多言語対応も継続。
4. 規制対応と独立性の維持
Adobe買収破談を経て独立性を維持しつつ、大企業への依存型ではない、自社志向の成長戦略を貫く姿勢を継続中。
5.まとめ
Figmaは2025年現在、単なる共同デザインツールから「AI × 全工程対応型クリエイティブプラットフォーム」へと飛躍を遂げています。IPO準備中の同社は、AIを基盤に据えた製品拡充とユーザー層の拡大を通じ、今後数年でデザイン業界のみならず、ウェブ制作やマーケティング領域でも必須のプラットフォームとしての地位を確立するでしょう。